花 吹 雪 昭和五十五年
観音像に東大寺展侍すひとときの長閑なる
寝転べば花冷え腰に乗ってくる
眼つむれど大仏開眼に花吹雪
樹氷林後光のごとき貴霜亡く
春寒き聴問通知のペンを措く
柿若葉雨に安堵の化け地蔵
暑き夜の踏切近きを疎んじる
蠅が来てくるくる踊るペンの先
赤富士の額どっぷりと居留守かな
寓話など聞く耳ほしい蛍籠
こおろぎの独演われに憚らず
千仭の渓手繰り来て栗拾ふ
枯れ蟷螂為すすべもなく焚かれけり
冬の蝶大欅よりまろび出づ
残る菊風が肺腑に滲みてくる
着脹れて女どこまで発条の腰
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