四 次 元 昭和五十六年
枯れ茨避けて通れぬ夜道とて
星冴ゆる歩道ちかちか銀砂子
督促の夜討ち朝駈け寒卵
曇る硝子に父の名記し暖房車
掃除機の塵転げ落つ古暦
鷽替へて二心はあらぬ穢土浄土
一隅へ鳩押し戻し春一番
老に嬰児に法王の掌に雪ちらほら
柳絮飛ぶ湖へ吹きやる抜け白髪
恩赦とは縁なき衆生葱坊主
教材抱えて闇坂くだる沈丁花
短夜や体毛につく湯の気泡
葱坊主「夕焼け放送」に聞き耳立つ
真っ白き義弟逝く四十九の過去や夏の蝶
五月雨のしずく電線を数珠繋ぎ
息災を請ふる一日のゼラニューム
教壇の蚊を追いやりて曇り空
黴匂ふ筆嚙み永字よみがへる
まひまひの疲れ休みを峡の雨
宙に舞ひて滝四次元を欲しいまま
日焼け妻使い走りに物足らず
てのひらを旅立つ列車天の川
鱗雲砂の命と素粒子と
秋の暮空き缶家まで転がって
邯鄲は夢路への使者仮り住居
闇を裂いてアーク溶接男郎花
寒そぞろ右肩より剥がすサロンパス
恨まれる由なし秋刀魚の目と老眼
虎落笛答案用紙措くべきか
目次に戻る