美 術 展 昭和五十八年
コスモスに酔ひ山番の老夫婦
杉の秀に朝日とどめる谷の霧
悴んで僕の星座の宙ぶらりん
ゴンドラの歌懐かしく紅葉散る
鈴を振る手を金縛り空っ風
御百度踏む業褒めそやす寒雀
暖冬や夢を購ふ列にゐて
早春の包丁透けて研ぎ澄める
春寒や人事速報をやぶにらみ
囀りや貝殻骨を掌で押さへ
エンゼルに性別ありぬ石鹼玉
畦を焼く火がうろうろと旋風
ヒヤシンス駅ビル女ばかりなり
西向きに駝鳥ゐるかや葱の花
仰山なスプレーの文字白薔薇
病葉のころころ鈴の音となりぬ
急停車ふと目前の巴旦杏
ででむしの葉裏づたいに鉢移る
かばん振り振り列から行へ栗の花
訓練の節目ふしめをきりぎりす
細腕は妻の象徴竹の春
点火して秋刀魚飛び立つ秒読みに
浮世絵をいざなふ異人美術館
薪足して噎せつ唐黍焼かれしよ
児と数へる十までの玉運動会
深呼吸して木犀の団子坂
手すき和紙の絵に舞ひ戻るしじみ蝶
蓑山の桜帯なり弓なりに
秩父路の涼しきものに鍾乳石
愛すればこそ蟷螂の身を尽くす
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