散り紅葉 昭和六十一年
鉄塔を流れるハープ十三夜
冬ともしだけを頼りにポトスの葉
白息を曳きだしてゆく高架駅
ビル街の鳩スリムなる十二月
散り紅葉煙となりし父仰ぐ
ぴしぴしと玻瑙怒らせて寒波来る
熟れ柿の愚図と言はれてなお落ちず
赤蜻蛉せせらぎに乗り風に乗り
一枚の賀状小寅の寄り添ふて
二日はや陶器の干支は売り尽くされ
敗戦句集ほろりと読みて三日かな
痛ましき写真の笑顔大火記事
崖氷柱壺にめり込む金米糖
料峭や葬式ごっこの教師たち
春の風邪耳の裏より腑ぬけ声
臈たけしアイドル二人蕗の薹
穴出でし蟻の愉しき待ち時間
葱坊主白髪もとより気に止めず
桜湯でのむ粉薬峠茶屋
屈まりて後咲きされどシクラメン
品書きのここにも「どぜう」泥鰌鍋
百条の木洩れ日降らす隠れ蟹
夏燕おおぞら三百六十度
蟻地獄大岡裁きなど知らず
短夜のテレビ髷物に執しけり
宿下駄を鳴らして渓へ薄雪草
舐めて貼る切手の甘さ青林檎
網鬼灯鬼も仏も悽める家
鰯雲流れてのっぽビル倒す
日焼けたり初級試験をうけしあと
満を持して企業訪問鰯雲
唇から花に貌突っ込んで秋の蝶
敬老日余すこと無く施肥済ます
泡立草複々線の夢いずこ
まん丸い宇宙のとびら後の月
音萎へしトライアングル鉦叩き
愛の羽根栞となりて消へにけり
郷望むレンズに富士の乙女雪
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