苺  畑 昭和五十七年
トンネル出るやめりはり利かし渓紅葉
霊峰に向きて研修蔦紅葉
夜の女神紅葉衾に弧を画いて
針振るふを見て女王蜂冬籠
電子ジャーの蒸気手の胼を舐めている
神の留守一日こけしを見て飽かぬ
露見記事日向埃が渦巻いて
除夜の鐘ひょうきん者に成りきれず
黄金色に南半球の初景色
柳芽吹く都心の朝と夜の顔
蝌蚪生まれて脳半球の蠢けり
シクラメン男も慣れし厨事
ベランダは方寸の土地福寿草
隙間風舌の嚙み傷歯に当たる
初蝶の触れて行きけり五十肩
中国製のズボンだぶだぶ蕗の薹
青みどろ押し退けて陽に動くもの
のけ反って見やる鶏舎のぶと一揆
ロボットが密かに増ゆる苺畑
薔薇を抱く娘に朝雨の横なぐり
教材を選る月明けの釣り忍
もてあますバリウム喉に返り梅雨
丹念に拭ふ実梅のへたの山
遍路笠掠め蜻蛉の三段跳び
天高く置き傘三本とも違ふ
天狗茸見やる木の貌草の貌
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