春ごろも 昭和六十二年
小春風「亜」から始まる小辞典
知る人ぞ知る落ち葉にも血液型
水陸を翔び分けてありかいつぶり
骨壺におさまりし妹落ち葉道
鬼おこぜ鼾かくほど酒飲まず
腕時計鳴らし眠れる暖房車
主役無き来し方行方除夜の鐘
臥してなを腰の重みに風邪の神
宝登山のけむり火渡り梅曇り
朝東風に寝癖つきたる髪を梳く
のけぞって歌真似る童の春ごろも
啓蟄やベストセラーの季寄せあり
アンカーと鳴る蒲公英の絮とべり
蛇苺蛇の住み処と子ら答ふ
独り占めしてベランダの日照り草
都忘れ紫色は故郷のいろ
推敲を断ちて降り立つ冷房車
前奏のこれも二拍子つづれさせ
限り無き蕾の神秘黄コスモス
はしゃぎ来て無月の空に独り酌む
除幕を待つ平安神宮御製の碑あり菊の宮
究極のふるさと古都の渓紅葉
落柿舎に陽のやわらかき夕紅葉
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