対岸の花火 昭和六十三年
わが名小さく添へて社用の賀状書く
鳴き龍を模して柏手初明り
立春の日の出紅蓮の炎となる
葉牡丹の天衣無縫を三鉢買ふ
五香水・朝餉・甘鮭・海苔・卵
釣り橋の揺らぐ浅瀬を鮎光る
作詞家は造語の名手不断草
ボス猿の汗拭きあへぬ動きかな
対岸の花火こまめに奇をてらふ
たかんなや追分に節七つあり
こおろぎや老いの証しを鼻濁音
小蟷螂が見てゐるおれの眼も三角
秋霖や瀞を真下の同期会
秋桜土手行く翁の徒手体操
一兵卒たりしのらくろ鳳仙花
早や爪を切らねばならぬ蜜柑むく
燕帰る終止符を打つことなかれ
たんぽぽの絮先陣をあらそはず
石鹼玉くるくる浄土を見るような
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